夜の誰もいない道を駅まで送る間、酔った彼女は上機嫌だった。いつも誠心誠意でお客様に接する彼女に俺が好意を持ってたのは間違いない。上機嫌に鼻唄を唄いながら、フラフラと足取りは覚束ない。
「ぶつかるぞ」
電柱に激突しそうな彼女の腕を掴むと、案外簡単に落ちてきた。
「あは、ありがとうございます、先輩」
近くで薫る微かな匂いは香水などでなく、仕事柄染み付いた珈琲の深い香りだ。俺の好きな香りでもある。
まずい。頭がクラクラしてきた。
「ここでちょっと休みましょう、先輩っ」
彼女に手を引かれ、小さな公園に入る。
「飲み物買ってきまーす」
止める間もなく、自販機へと駆け出す彼女を見送り、電灯の下に佇む。時折、光の音が聞こえる。
戻って来た彼女の手にはミネラルウォータが一つ。こちらをお構いなしに、彼女は蓋を開けて口にする。喉を鳴らす彼女の白い首筋から顔を反らす。
「…先輩?」
少し不安そうな声に慌てて顧みると、上目使いで縋るように見つめてきている。好意はあるが、ただの同僚である彼女から、慌てて俺は背けた。今すぐ逃げ出すべきか、真剣に悩んだ。